日本海海戦（明治三十八の年）

明治三十八の年
頃しも五月の末つ方
濛気も深き暁に
済州島の沖遙か

敵艦今や寄せ来ぬと
物見の艦の信号
脾肉の嘆を漏しつつ
待ちに待ちたる我が軍は

天の与えと雀躍し
舳艫銜んで錨抜く
御国の安危この一挙
掛りて我等ますらおの

肩に有りぬと奮い立つ
戦士三万意気高し
荒ぶ風浪何の其の
醜虜殲滅するまでは

再び生きて帰らじと
勇気凛々進む間に
正午も過ぎて早や半時
霞める沖の島の辺に

煤煙一つ又二つ
次第に見ゆる数十条
旗艦スワロフ始めとし
続く敵艦約四十

二列縦陣厳かに
波を蹴立てて進み来つ
やがて打出す砲声は
殷々轟々凄じく

砲煙天に漲りて
白日為に光なく
奮戦ここに数時間
我が勇猛の砲撃に

今や乱るる敵の陣
あるいは沈みまたは焼け
残れるものは傷付きて
戦闘力も絶々に

逃れかねてぞ躊躇える
時しもあれや日は落ちて
夜色悽愴気は熟し
襲う水雷駆逐艦

敵陣近く肉薄し
力の限り追い撃てば
闇に紛れて乱れ散る
秋の木の葉のそれのごと

明くれば二十八日に
逃れ遅れし敵四隻
砲門砕け舵折れて
憐れや揚ぐる降参旗

勇気絶倫名も高き
敵帥ロゼスト提督も
鬱陵島の島影に
俘虜となりし浅ましさ

辛苦慘憺幾月か
万里の波濤を凌ぎつつ
極東遙か進み来し
かの強勇のバルチックも

大和武夫に敵し得で
目指す港を前に見て
沈みつ焼けつ奪われつ
消えて哀れや水の泡

山は青々水清き
秋津島根に仇をなす
醜虜はいかに猛くとも
などで敵せん大和魂

やがて東海波荒ぶ
底の藻屑と消え果てん
帝国万歳万々歳
神州万歳万々歳